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浦和地方裁判所 昭和57年(行ウ)3号 判決 1985年3月25日

原告

鯨井万吉

若山秀夫

右両名訴訟代理人

白井正明

白井典子

被告

木村嘉正

右訴訟代理人

飯山一司

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告ら

「1被告は、吉見町に対し金一〇四万円の支払をせよ。2訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

一  原告ら・請求原因

1  当事者

原告らは、いずれも吉見町(以下「町」という。)の住民であり、被告は、昭和五二年五月から引続いて同町の町長の地位にある。

2  本件補助金交付

(一) 町では、埼玉県(以下「県」という。)及び町の水田再編事業実施要綱に基づいて転換水田の団地化を促進するために、集落などが団地化促進事業の推進会議を実施すれば、県の負担により、一集落当り金八万円の補助金(食糧費、印刷製本費、旅費、報償費及び通信運搬費などの実費。以下「本件補助金」という。)を交付することになつている。

(二) しかるところ、町、鴻巣市及び北本市により設けられた一部事務組合である埼玉中部環境保全組合が、ごみ焼却場を吉見町大字大串字中山地域内に建設する計画を企て、そのために右建設をめぐつて町民が賛否両派に分かれて争う事態が生ずるに至つた。このような状況の下で、被告は、町長として、本件補助金の交付を請求ないし希望する集落が存しなかつたことから、いわゆる補助金のばらまきにより、自己が次期町長選挙に出馬した際の支援を獲得し、かつ懸案のごみ焼却場建設に賛成する集落の区長等に対し、これら功労に報いるため金銭上の利益を得させることを企て、別表一記載の一三集落(以下、本件各集落という。)の代表者を選んだうえ、町職員をして転換水田促進事業実施計画書(以下「計画書」という。)、補助金交付申請書(以下「申請書」という。)、及び実績報告書に所要事項を適宜記入させ、右代表者らをして右書類に押印させてこれを受理し、所定の手続を経て県知事により、本件補助金として県の負担による金一〇四万円の支出の承認を得たうえ、昭和五六年五月八日町役場大会議室において、自ら右代表者らに対し、本件補助金として町の公金一〇四万円(各八万円ずつ)を支出交付した(本件補助金交付)。

3  本件補助金交付の違法性

(一) 本件補助金交付を受けた代表者らは、団地化促進事業及び連担団地参加者の出席を得た協議を行なつたことがなく、また、各集落において本件補助金の使用目的である事業費(その内容は食糧費など)の支出が全くなされていなかつたのであるが、被告は右事実を充分知悉し、かつ、代表者らが、交付を受けた補助金を、集落ではなく部落の会計に入れること又は、集落に還元することなく個人において費消することをも容認した上で、本件補助金交付をなしたものである。

(二) 本件補助金交付の要件は、団地化促進事業推進会議を開催することであるが、右会議は、転換水田の団地化が可能な土地の地権者らにより開催されたものでなければならず、既に団地化された転換水田の地権者らによるものは、右要件に該当しないところ、高尾新田、久保田新田の両集落においては、単独地権者たる小林允之、秋山圭扶がそれぞれ飼料用とうもろこしを栽培しているから、既に団地化が完成しているのであつて、右二団地については本件補助金交付の要件を欠く。

(三) 被告による本件補助金交付は、前記2(二)のとおりその意図において正当な公金支出となりえない。

4  被告の責任

被告は、右のとおり、本件補助金交付が違法であることを知りながら、本件補助金として合計金一〇四万円の町の公金を支出交付して、町に対し右同額の損害を被らせた。

5  住民監査請求

原告らは、昭和五七年一月二五日ころ町監査委員に対し、本件補助金交付について監査請求をしたところ、同委員は、同年三月一〇日本件補助金交付は何ら違法性がないから請求は理由がないと認め、そのころ原告らにその旨通知をした。

よつて、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、町に代位して、被告に対し、町に対する損害賠償金一〇四万円の支払を求める。

二  被告・認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める(但し、町の要綱の存在は否認する。県の要綱は正確には後記三1(四)のとおりである。)。

同2(二)の事実のうち、原告ら主張の地方公共団体の設けた埼玉中部環境保全組合が、原告ら主張の場所にごみ焼却場を建設する計画をたてたこと、所定の手続を経て県知事により県の負担による本件補助金一三集落分、一〇四万円の支出が認められたこと、被告が町長として原告ら主張の日時・場所において一三名の代表者に対し、各金八万円の補助金を交付したことは認め、その余は否認する。

3  同3の事実は否認し、その主張は争う。

4  同4の主張は争う。

5  同5の事実は認める。

三  被告・抗弁と反論

1  本件補助金の根拠

(一) 政府は、昭和五三年一月二〇日、米の需給を均衡させつつ農産物の総合的な自給力の向上を図るため、水田利用の再編成を推進し、需要の動向に安定的に対応しうる農業生産構造の確立を期することを目的とする「農産物の総合的な自給力の強化と米需給均衡化対策」を閣議了解により定めた。

(二) 農林省は、右閣議了解事項の実施に当り、昭和五三年四月六日農林事務次官依命通達「水田利用再編対策要綱」(五三農蚕第二三七九号)を発した。右要綱は、その第五において水田利用再編奨励金の交付等を、同第八の(2)において都道府県及び市町村の右対策推進体制をそれぞれ定めている。

(三) 農林省は、昭和五四年一一月三〇日省議決定「昭和五五年度の水田利用再編対策の推進について」をもつて、水田利用再編奨励補助金を前年度に引き続き交付することとした。

(四) 県知事は、昭和五三年六月二六日水田利用再編対策の円滑な実施を図るため、地域の実情に応じて転作に必要な諸条件を整備することを目的として「県費単独転作条件整備事業実施要領」を定め、これに基づき「転換水田団地化促進事業実施要領」及び「県費単独転作条件整備事業費補助金交付要綱」をもつて集落が行なう転換水田団地化促進事業に要する経費を市町村が補助する場合における当該補助に要する経費として、一集落当り金八万円を交付することを定め、その補助事業の内容及び補助金交付の手続を次のように規定した。

(1) 事業の内容

集落の農業者が話合を通じて集落内の転作田を集積し、高度な連担団地地区を計画するための事業とする。高度な連担団地地区は、計画地区内にある三ヘクタール以上の連担団地又は一ヘクタール(山間地にあつては、〇・七ヘクタール)以上の連担団地であつて、これらの面積合計が計画地区の転作面積の三分の二以上となるそれぞれの連担団地が確保されると共に、土地基盤が整備され(又は整備の見込みがあること)、集団転作の条件が確保されていることを要する。

(2) 補助率(定額)

昭和五五年度 一集落当り金八万円

(3) 手続

集落は、①市町村長を通して県知事の承認を受け、②承認を受けた事業計画に従つて事業を実施し、③事業完了後三〇日以内に事業実績報告書を市町村長に提出し、市町村長はこれをとりまとめて県知事に報告する。

本件補助金は、集落において昭和五五年度内に転換水田団地化促進事業の推進会議が開催されているならば交付の対象となるものである。

2  本件補助金交付の経過

(一) 県実施の昭和五五年度転換水田団地化促進事業(以下「本件促進事業」という。)の説明会等

(1) 県は、昭和五五年一〇月二一日市町村の農政担当者会議を開催し、転作水田再編の第二期対策(本件促進事業を含む。以下、同じ。)の政策概要を説明した。

(2) 町を管轄する県東松山農林事務所は、同年一一月二八日管内市町村の農政担当課長会議を開催し、前記第二期対策等について説明を行つた。

(3) 県は、同年一二月一〇日、一一日の二日間川越市において市町村農政担当者会議を開催し、本件促進事業の推進について説明講習を行なつた。

(4) 県東松山農林事務所は、昭和五六年一月二〇日管内市町村の担当者会議を開催し、本件促進事業の実施に関する具体的説明を行なつた。その際、県の行政措置により、事業実施主体において団地化促進会議開催の実績があれば、仮に昭和五六年度中の転作団地面積が目標値に達しない場合であつても、交付を受けた本件補助金の返還を要しない旨の説明もなされた。

(二) 町は、昭和五六年一月中に既設(昭和五三年第一期対策時に設立)の町、町農業協同組合、町農業共済組合、その他の農業団体、区長会、町農業委員会、町議会などの各代表者等により構成する水田利用再編対策推進協議を開催して、本件促進事業等の第二期対策の内容を説明して協力を求め、同月中に町内五五の全集落に対し、本件促進事業実施の希望を募つたが、所定の団地化が達成されない場合は補助金を返還すべき義務があることを危惧して、いずれの集落からも、実施の申し出がなされなかつた。このため、町は、前年度の水田転作実施状況を集落毎に検討し、団地化可能集落の候補として別表一記載の本件各集落を選定したうえ、右各集落と協議したところ、その結果に基づいて、同年二月一三日本件各集落から町に対し、本件促進事業の計画書が提出された。

(三) 町は、県に対し昭和五六年一月一四日右計画書を提出した。

(四) 県は、昭和五六年二月一九日町に対し、本件促進事業の実施計画の承認及び本件補助金交付の内示について通知し、次いで町は、本件各集落の代表者に対し右内容を通知した。

(五) 本件各集落の代表者は、昭和五六年二月二六日町に対し、それぞれ本件補助金の交付申請をし、町は、これに基づいて、同月二七日県に対し、町として本件補助金の交付申請をした。

(六) 県は、昭和五六年三月五日町に対し本件補助金交付決定の通知をした。町は、同月一〇日県に対し本件補助金の概算払請求書を提出し、同月三一日本件各集落の代表者に対し、本件補助金交付の決定を通知した。

(七)(1) 町は、別表二のとおり、本件促進事業に関し集落座談会を開催した。

(2) 本件各集落の区長らは、町経済課職員矢島久行、同永島通、同西村房男より、本件促進事業の内容及び第二期対策の内容、昭和五五年度の転作の状況の実績、図面等の説明を受け、別表三のとおり、本件各集落全戸の出席を得て、本件促進事業受入れの会議を開催した。

さらに、本件各集落は、県東松山農林事務所、町経済課、町農業改良普及所、町農業協同組合の各職員の出席を求めて第二期対策及び本件促進事業の具体的説明を受けるため、別表四のとおり会議を開催した。

(八) 本件各集落の代表者らは、町経済課職員矢島久行らに実績報告書の所要事項を記入してもらい、その記名部分に押印して、昭和五六年四月一五日町に対してこれを提出した。町は、同月二七日県に対し右実績報告書を提出した。

(九) 被告は、昭和五六年五月八日本件各集落の代表者らに対し、それぞれ金八万円宛の本件補助金を交付した。

3  本件補助金の使途

本件補助金の交付をうけた本件各集落の代表者らは、谷口矢筑の代表者野口光太郎、谷口神明通の代表者高木実を除いて、直ちにこれをその集落の会計に振込んでいる。

谷口矢筑、谷口神明通の新代表者(区長)木村政治は、いずれも集落が交付を受けた本件補助金として、昭和五六年五月二〇日過ころ谷口神明通前代表者高木実から八万円の小切手を、六月初ころ谷口矢筑前代表者野口光太郎から現金八万円をそれぞれ受取つたが、木村方の家族の病気や農繁期などのため、おくれて同年七月五日右各集落の総会を開催し、右金員(小切手を含む。)の使途について協議した結果、これを字費(集落の会計)に繰り入れたうえ、稲荷神社の修理費に充てることを決定した。

もとより、本件補助金は、本件促進事業の実施に関する経費のうち会議費について補助するものであるが、事業施行主体たる本件各集落は、本件補助金の交付を受ける以前に、本件促進事業を実施するための会議開催に関して、既に、各集落の会計から、食糧費(茶菓子代)、住民への会議通知文作成費、旧役員(区長、区長代理)に対する慰労金等の費用を支出していたことから、交付された本件補助金が、直接集落の会計に振り込まれたというのが実情である。

4  本件補助金は、県が、県費単独転作条件整備事業のために支出したものであるから、仮に本件補助金交付が違法であるとしても、その損害は県に帰属するのであつて、町が損害を被ることはない。

のみならず、町は、本件促進事業に関し、達成率九二・三パーセントという成績をおさめており、県も何ら損害を被つていないのである。

四  原告ら・抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は知らない。

同2(二)の事実のうち、町が水田利用再編対策推進協議会を開催したこと、一月中に町内五五の全集落に対し本件促進事業実施の希望を募つたこと、一三名の者から本件促進事業の実施計画書が提出されたことは認め、その余は否認する。

同2(三)ないし(六)、(八)、(九)の各事実は認める。但し、本件補助金の交付を受けたのは本件各集落ではなく、一三名の町民が、個人として、町の指図により書類を作成し、これを受領したにすぎない。

同2(七)(1)の事実は認める。もつとも、集落座談会は全集落の恒例行事であつて、本件各集落に限らず開催されているものであるから、本件補助金交付の要件を充足する会議に当たらない。また、中新井、江綱、下細谷、谷口の各集落における集落座談会は、右各集落単位に一回開催されただけであるから、仮にこれらが本件補助金交付の要件を充たす会議に当たるとしても、当該会議は右各集落につき一回しか行われなかつたことになる。にもかかわらず、本件補助金交付に際しては、右各集落がその集落内で二回会議を開催したものとされており、補助金の二重取りが行われているのである。

同2(七)(2)の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一原告らが、町の住民であり、被告が、昭和五二年五月から引続いて町長の地位にあること、被告が、県知事により県の負担による本件補助金支出の承認を得たうえ、昭和五六年五月八日町役場大会議室において別紙一記載の本件各集落の代表者らに対し各金八万円の本件補助金を交付して、町の公金を支出したこと、原告らがその主張のとおり本件補助金交付について住民監査を経たことについては、当事者間に争いがない。

二本件補助金交付の適否

1  本件補助金交付の根拠、要件及び手続が被告主張(抗弁1)のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  そこで、本件において県において定めた補助金交付の要件が満たされているか否かについて検討するに、本件補助金の交付の手続が、これを受けようとする事業実施主体たる集落において事業実施計画を作成し、市町村長を経由して知事の承認を受け、これに従つて事業を実施し(具体的には、転換水田団地化促進事業推進会議を開催すること)、事業完了後三〇日以内に事業実績報告書を市町村長に提出すべきものとされていることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

(一)  事業実施計画の樹立及び知事による承認

(1) <証拠>を総合すると、本件各集落の区長らが、昭和五六年二月一三日ころ町経済課の職員の教示を受け、同職員に所要事項を記入してもらつて、右各集落単位に、「昭和五五年度転換水田団地化促進事業実施計画書」を作成し、そのころ、右書面を町長に提出したこと、右各書面に示された事業実施計画は、その採択要件である、①当該集落内に高度な連担団地地区(計画地区内にある三ヘクタール以上の連担団地又は一ヘクタール以上の連担団地であつてこれらの面積合計が計画地区の転作面積の三分の二以上となるそれぞれの連担団地(山間地にあつては、一ヘクタールに代えて〇・七ヘクタール))が確保されること、②土地基盤が整備され(又は、今後整備が見込まれ)、集団転作の条件が確保されていること、③当該集落内に三戸以上の中該農家が存在して集団栽培の管理記帳等が徹底できること(転換水田団地化促進事業実施要領)をそれぞれ充足していることが認められる。

(2) <証拠>によれば、町長(被告)は、昭和五六年二月一四日前記の各事業実施計画書をとりまとめて県知事に提出したこと、県知事は、同年二月一九日右各計画を承認するとともに、町長に対し、同計画実施に伴う補助金交付の内示をしたこと、これを受けた町長は、同年二月二三日本件各集落の代表者らに対し、右各事業実施計画が承認され、補助金交付の内示がなされた旨を伝達したことを認めることができる。

(二)  本件補助金交付の申請

(1) <証拠>を総合すると、本件各集落の代表者らは、昭和五六年二月二六日ころ町経済課の職員の教示を受け、同職員に所要事項を記入してもらつて、右各集落単位に、補助金交付申請書を作成し、これを町長に対し提出したことを認めることができる。

(2) <証拠>によれば、町長は、昭和五六年二月二七日県知事に対し、本件各集落が本件促進事業を実施するうえで必要となる経費について県の補助を受けるため、本件促進事業費補助金の交付を申請したことが認められる。

(三)  転換水田団地化促進事業の推進会議の開催について

(1) 本件各集落において別表二記載のとおり、集落座談会が開催されたことについては当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、<証拠>を総合すると別表二記載の集落座談会は、町主催のものであるが、これらの会合には、県東松山農林事務所、町経済課、町農業改良普及所、町農業協同組合の各職員が出席し、主として水田利用再編第二期対策について説明するとともに(その他農用地利用増進事業、農業機械化作業広域調整促進事業についての説明もなされている。)、右第二期対策について、出席者からの質疑、これに対する職員らの応答及び意見交換がなされたことを認めることができ、この認定に反する証人高木実の供述部分は措信しえず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、別表二記載の本件各集落の集落座談会において、転換水田団地化促進のための話し合いが行われたものということができる。

(2) 原告は、前記各集落座談会は、本件各集落のみならず、他の集落においても恒例として実施されている会合であるから、本件補助金交付の要件を充足する会議ではない旨主張するが前記のとおり、本件補助金交付の要件は、転換水田団地化促進のための会議を開催することであるが、その要点は、関係者が集合して、右事業に関する実質的な話し合いをすることであり、その会議の開催目的が、専ら右のような話し合いをするものであることを要するとは解せられないから、本件各集落の右事業に関する話し合いが、他の集落においても恒例となつている集落座談会の場でなされたからといつて、本件補助金交付の要件を充足しないとはいえない。

(3) 原告は、抗弁に対する認否2の主張のとおり、中新井、江綱、下細谷、谷口の各集落については、補助金の二重取りが行われた旨主張するので、この点について検討するに、なるほど、<証拠>によれば、本件各集落のうち、谷口(神明通)と同(矢筑)、下細谷(上)と同(下)、江綱(上)と同(下)、中新井(神明)と同(天神)が、それぞれ合同して前記の集落座談会を開催したことを認めることができるけれども、前記の本件促進事業実施計画は右各集落単位に作成され、右集落座談会ではその計画について話し合いが持たれていること、右集落座談会の開催については、右各集落単位で、通信費、茶菓子代等の会議開催費用が生じていることに鑑みれば、それぞれにつき一集落、定額八万円の本件補助金交付の要件を充足するものであつて、同一の機会に二つの集落の会議が持たれたからといつて、補助金の二重取りがなされたものとはいえない。

(4) 原告は、高尾新田、久保田新田の両集落については、既に転換水田の団地化が完成しており、右両集落において開催された前記集落座談会(転換水田団地化促進会議)は、本件補助金交付の要件を充足しない旨主張する。

<証拠>によれば、久保田新田においては、地権者が複数存在するが、秋山圭扶を代表者とするわかば農業研究会が右地権者らから全耕地を一括して借り受け、とうもろこしを栽培していること、高尾新田においても、小林允之を代表者とするわかば農業研究会が、複数地権者から四・三ヘクタールの耕地を借り受けて、主としてとうもろこしを栽培していることが認められ、これらの認定事実によれば、右両集落については、既に団地化が実現しているものというべきであるけれども、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、本件補助金は、まだ転換水田の団地化が未了の集落だけでなく、既に団地化が実現している集落においても、その団地化を定着させるため若しくはより高度な団地化を進めるため、又はより良い転作を推進するために転換水田団地化促進の話し合いを実施したときは、その交付を受けうるものであることを認めることができるから、前記原告の主張は失当である。

(四)  実績報告書の提出

<証拠>を総合すると、本件各集落の代表者らは、昭和五六年四月一五日ころ町経済課の職員の教示を受け、同職員に所要事項を記入してもらつて、「実績報告書」を作成し、これを町長に提出したことを認めることができる。

以上の説示から明らかなとおり、本件補助金交付の要件は極めて緩かであつて、その具体的な決定は、基本となる水田利用再編の政策目的(被告の抗弁1の引用する閣議了解など)に適合する範囲内における県知事及び市町村長の裁量に委ねられているものというべきところ、本件促進事業の末端の実施主体が、右政策目的について県若しくは市町村の担当吏員から説明を受け、又は、具体的な実施方策等について話し合うための会合を開催した場合に、これに要する費用(その内容は、食糧費、印刷製本費、旅費、通信費等)につき、補助をなすということは、右の基本たる政策目的に直結するかは別として、少なくともこれに適合する範囲を逸脱しないものというべきであり、また、前説示の本件補助金交付手続は一応適正なものと評することができる。そうとすると、前説示の事実関係の下で、被告が、町長として、本件各集落において転換水田団地化促進事業のための話し合いがなされた旨の事実を認定し、所要の手続が履践されたとして本件各集落の代表者らに対し、本件補助金を交付したことは、その裁量権の範囲内の処分であつて、適法というべきである。

3  さらに、原告は、被告が自ら次期町長選挙に立候補した際の支援を獲得し、かつごみ焼却場建設に賛成する集落の代表者等に利益を得させる目的をもつて本件補助金交付を行つた旨主張するところ、既に説示したところから明らかなように、その交付決定には県知事、ことに市町村長の適切な裁量権の行使が所与の目的から望まれるところ、本件の場合も一見右政策目的から程遠いものと断ぜざるを得ず、かような場合にあつて、町長(被告)の主導下になされ、かつ、集落代表者らが本件補助金の趣旨につき適切な認識をもつてこれを受領したと認めるべき証拠もないので、被告の本件補助金支出交付の意図につき疑念が差しはさまれるのも無理からぬところであるが、本件全証拠をもつてしても、なお、本件補助金交付が原告主張のような意図のもとにされたものと認めることはできない。

三結論

以上によると、その余の点につき判断するまでもなく原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高山 晨 裁判官小池信行 裁判官深見玲子)

別表 一

集落名

代表者名

中新井(神明)

小泉武治

中新井(天神)

小久保繁

大串毘沙門

山崎高治

久保田新田

飯村好二郎

江和井

野口博義

高尾新田

新井武行

小新井

金子忠行

江綱(上)

田中修二

江綱(下)

小倉正一

下細谷(上)

関口栄次郎

下細谷(下)

大山敏重

谷口(矢筑)

野口光太郎

谷口(神明通)

木村政治

別表 二

開催年月日

集落名

昭和五六年

三月  四日

谷口(矢筑・神明通)

三月  五日

江和井

三月  六日

久保田新田

高尾新田

下細谷(上・下)

三月  七日

大串毘沙門

三月  九日

江綱(上・下)

三月一三日

小新井

中新井(神明・天神)

別表 三

開催年月日

集落名

出席人数(人)

昭和五六年

二月  四日

中新井(神明)

一三

二月  四日

中新井(天神)

二八

二月  五日

大串毘沙門

二三

二月  六日

久保田新田

一九

二月  七日

江和井

四六

二月  九日

高尾新田

二九

二月一〇日

小新井

一一

二月一二日

江綱(上)

四〇

二月一二日

江綱(下)

三二

二月一三日

下細谷(上)

三一

二月一三日

下細谷(下)

二六

二月一四日

谷口(矢筑)

一四

二月一四日

谷口(神明通)

一二

別表 四

開催年月日

集落名

出席人数(人)

昭和五六年

三月  四日

谷口(矢筑)

一三

三月  四日

谷口(神明通)

一二

三月  五日

江和井

二九

三月  五日

久保田新田

三月  五日

高尾新田

一三

三月  六日

下細谷(上)

三一

三月  六日

下細谷(下)

一〇

三月  七日

大串毘沙門

一五

三月  九日

江綱(上)

一〇

三月  九日

江綱(下)

一一

三月一〇日

大串毘沙門

二二

三月一三日

小新井

三月一三日

中新井(神明)

三月一三日

中新井(天神)

一〇

四月一〇日

中新井(神明)

四月一〇日

中新井(天神)

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